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データベース設計のアンチパターンとは?

データベース設計におけるアンチパターンを理解することで、データベースの性能を適正化し、運用のトラブルを未然に防げます。

この記事では、アンチパターンの基本概念から、具体的な事例と回避方法について詳しく解説します。データベース設計の品質を向上させるためのポイントを押さえ、適切な設計手法を学びましょう。

アンチパターンとは

アンチパターンとは、ソフトウェア開発においてよく見られる失敗のパターンを整理し、それを回避するための方法をまとめた概念です。この用語は1995年にアンドリュー・コーニグによって提唱され、比較的新しい概念として広く認識されています。

アンチパターンを理解し避けることで、ソフトウェア開発の効率と品質を向上させられるのです。

アンチパターンの定義と背景

アンチパターンは、問題解決のために初期は適切に思えるが、最終的には好ましくない結果を招くケースが多い悪い典型例を指します。これらのパターンは、よくある失敗として多くの現場で繰り返されており、改善のための一般的な手法も提案されています。

アンチパターンは、ソフトウェア工学における良い設計パターンを整理した「デザインパターン」に対する逆の概念と理解しておきましょう。

アンチパターンの広がり

アンチパターンという概念は、ソフトウェア開発の分野に留まらず、プロジェクト管理や一般のビジネス手法にも適用されています。

例えば、野放図にプログラムの拡張や修正を繰り返し制御の流れが追跡困難になる「スパゲッティコード」、すでに知られている定番の解法を使わずに、似たような手法を自作する「車輪の再発明」、馴染みのある手法を適性や、限界を考えず何にでも適用する「打ち出の小槌」などがよく知られています。

アンチパターンの回避と重要性

アンチパターンを理解し、回避するのはプロジェクトの成功にとって非常に重要でしょう。データベース設計におけるアンチパターンを避けられれば、システム全体のパフォーマンスを向上させ、運用上のトラブルを未然に防げます。

特に大規模なシステムや、長期にわたるプロジェクトにおいて重要だと言えるでしょう。

具体的なアンチパターン

データベース設計において避けるべき具体的なアンチパターンを理解するのは、データの整合性を保ち、パフォーマンスを最適化するために重要です。ここでは、代表的なアンチパターンについて説明します。

  • 非正規化
  • 非スカラ値
  • EAV(Entity-Attribute-Value)
  • ダブルミーニング
  • 一つのIDに複数の意味をもたせる
  • 列もちテーブル
  • ポリモーフィック関連
  • キーレスエントリ
  • カーディナリティが低いインデックス
  • すべてのカラムにインデックスを貼る
  • 履歴情報が保持されていない

順番に見ていきましょう。

①非正規化

非正規化とは、データベース設計で意図的にデータの冗長性を許容する手法です。この手法はデータの取得速度を向上させるために利用されますが、データの一貫性を保つ上で問題を引き起こすことがあります。

例えば、学生情報を含むテーブルにおいて、同じ学生の情報が複数の行に重複して記録される場合、データの更新時に複数の行を同時に修正する必要があるのです。データの矛盾が発生しやすくなり、管理が煩雑になります。

改善策としては、学生、講座、教師といった異なるエンティティを分離し、それぞれのテーブルに格納する正規化を実施。データの冗長性を排除し、一貫性の確保が可能です。

【関連記事】:dbの正規化とは?メリット・デメリットを解説

②非スカラ値

非スカラ値とは、一つのカラムに複数の値を格納するデータベース設計のことです。例えば、電話番号をカンマ区切りで一つのカラムに格納するような場合が、これに該当します。この設計はデータの検索や更新を困難にし、パフォーマンスの低下を招いてしまうのです。

非スカラ値を使用すると、特定の電話番号を持つユーザーを検索する際に文字列操作が必要になり、クエリが複雑化します。また、インデックスの効率的な利用ができないため、検索速度も低下します。

この問題を解決するためには、電話番号を独立したテーブルとして分離し、ユーザーIDをキーとして関連付ける正規化を実施。データの検索や更新が容易になり、パフォーマンスの向上が期待できます。

③EAV(Entity-Attribute-Value)

EAVモデルは、柔軟性を重視して設計されたデータベースモデルであり、任意の属性と値を格納できます。しかし、データの整合性や型の一貫性を保つ上で多くの課題を抱えています。

例えば、あるエンティティが必ず持つべき属性が明確でないため、データの完全性が保証されません。また、属性の値が数値であるべきか文字列であるべきか不明確であり、データ型の不一致が生じやすくなります。さらに、外部キーの設定が困難であり、データの参照整合性が保たれない場合があるでしょう。

改善策としては、属性ごとに独立したカラムやテーブルを設け、具体的な名称とデータ型の制約を明示することで、データの一貫性を確保しなければいけません。

④ダブルミーニング

ダブルミーニングは、データベース設計において、一つのカラムに複数の意味を持たせるアンチパターンです。データの解釈や操作を複雑にし、データの一貫性や信頼性を低下させます。

例えば、あるテーブルで「column_1」が最初は体重を表していたが、後に年齢を示すように変更された場合、同じカラムに異なる種類のデータが混在します。これにより、クエリの結果が不明確になり、データの整合性が損なわれる可能性があるのです。また、データを追加や修正する際に、どの値が体重でどの値が年齢か判断する必要があるため、管理が煩雑になります。

改善策としては、体重と年齢を独立したカラムに分け、それぞれのカラムに明確な名前を付けることです。データの意味が明確になり、データベースの操作が簡単かつ効率的になります。

【関連記事】:データベース設計とは?基本と実際に行うための流れ・手順をチェック

⑤一つのIDに複数の意味をもたせる

データベース設計において、IDカラムに複数の意味を持たせることもアンチパターンの一つです。例えば、IDカラムの一部を支店コード、別の部分を部署コード、さらに別の部分を担当コードとして使用する方法です。

一見すると効率的に見えるかもしれませんが、実際は多くの問題を引き起こします。まず、データの一貫性が損なわれやすくなります。IDの一部が誤った情報を含んでいると、解釈が難しくなってしまうのです。また、将来的に部署コードの桁数が増えるなどの変更が必要になった場合、既存データとの整合性を保つのが困難になります。さらに、特定のコードを抽出する際に複雑なクエリが必要となり、データベースのパフォーマンスが低下してしまいます。

改善策としては、支店コード、部署コード、担当コードをそれぞれ独立したカラムに分けることです。各情報の管理が容易になり、データベースの拡張性とパフォーマンスが向上します。

⑥列もちテーブル

列持ちテーブルは、一つのエンティティに関連する、複数の属性を各列として持つ設計方法で、アンチパターンとして知られています。

例えば、社員の子供の名前を「子1」「子2」のように列で持つ場合です。この設計は、データの拡張性や管理のしやすさに問題があります。新しい属性が追加されるたびにテーブル構造を変更する必要があり非常に手間がかかるのです。また、一部のレコードだけが利用する列が存在するため、データの疎密性が発生し、ストレージの効率が低下します。さらに、特定の属性を検索や集計する際に、複数の列を対象とする必要があり、クエリが複雑になります。

改善策としては、各属性を独立した行として持つ行持ちテーブルに変換することです。これにより、属性の追加が容易になり、データの管理が効率的になるでしょう。また、クエリの簡略化とパフォーマンスの向上が期待できます。

⑦ポリモーフィック関連

ポリモーフィック関連は、一つのカラムで複数のエンティティやテーブルを参照するデータベース設計パターンです。一見すると柔軟性が高く便利に思えますが、データの整合性やクエリの複雑さを引き起こす場合があります。

例えば、コメントテーブルにおいて、reference_idが記事や商品のIDを指し、typeカラムでそのIDが何を指しているかを示す場合です。クエリ実行時にtypeに基づいて適切なテーブルに結合する必要があり、条件分岐が必要になります。また、外部キー制約を設定できず、データの整合性を保証するのが難しくなるのです。

改善するには、各エンティティ専用のカラムを作成し、適切な外部キー制約を設定することで、データの整合性を保ちます。また、共通テーブルを用いて、コメント可能なエンティティのIDを一元管理する方法も有効でしょう。

⑧キーレスエントリ

キーレスエントリとは、外部キーを使用しないデータベース設計のことを指します。外部キーは、テーブル間のリレーションを定義し、データの整合性を保証するために重要な役割を果たしますが、これを嫌う設計者もいます。

外部キーを使用しない場合、JOIN操作の際にインデックスがないとフルテーブルスキャンが必要になり、クエリの実行時間が大幅に増加する可能性があるでしょう。また、外部キー制約がないため、関連するテーブル間のデータ整合性が保たれず、データの不整合が発生しやすくなります。

改善するには外部キー制約を適切に利用し、インデックスを設定する必要があります。MySQLなどのRDBMSでは、外部キー制約を設定すると自動的にインデックスが作成されます。また、EXPLAIN句を使用してクエリのパフォーマンスを分析し、適切なインデックスを維持するのが重要でしょう。

⑨カーディナリティが低いインデックス

カーディナリティが低いインデックスとは、インデックスが指し示すユニークな値の数が少ないことを指します。例えば、性別のように「男性」「女性」の2つの値しか持たないカラムにインデックスを作成する場合、カーディナリティが非常に低いと言えます。

このようなインデックスは検索時の効果が薄く、多くのレコードが同じインデックス値を持つため、検索の効率が低下します。また、インデックスがストレージスペースを消費するため、効果が薄い割に無駄なスペースを占有します。さらに、データの追加や更新のたびにインデックスも更新されるため、パフォーマンスが低下する場合もあります。

改善策としては、ビットマップインデックスや複合インデックスの利用、テーブルのパーティショニングなどが挙げられます。これにより、検索性能を向上させられるでしょう。

⑩すべてのカラムにインデックスを貼る

すべてのカラムにインデックスを貼るアプローチは、一見すると任意のカラムでの検索が高速化されるように思えますが、多くのデメリットがあります。

まず、インデックスが多いと、データのINSERTやUPDATE時にすべてのインデックスも更新されるため、書き込みが遅くなります。また、不要なインデックスがストレージスペースを無駄に消費し、データベースのサイズが不必要に大きくなってしまうでしょう。

さらに、どのインデックスが実際に使用されているのか判断するのが難しくなり、管理が複雑化します。改善するには、必要なカラムだけにインデックスを貼り、EXPLAIN句を使用してパフォーマンスを分析することです。効果的なインデックスのみを維持するのが重要です。不要なインデックスは削除し、オーバーヘッドを削減することで、パフォーマンスを最適化するのです。

⑪履歴情報が保持されていない

履歴情報が保持されていない設計は、データの変更履歴が必要な場合に問題となります。データの変更がされるたびに古いデータが上書きされるため、過去のデータを参照できなくなるのです。

例えば、顧客の住所が変更された際に、以前の住所情報が完全に失われるケースです。データの回復や監査が困難になり、ビジネスや法的要件を満たすのが難しくなります。また、ユーザーが誤ってデータを変更、または削除した場合、その操作を元に戻せません。

改善策は、履歴テーブルを導入し、変更されたデータのバージョンや状態を保持するのが重要です。過去のデータを追跡し、必要に応じて復元が可能になります。

データベース設計のアンチパターンと改善策を理解しよう

いかがでしたでしょうか?データベース設計のアンチパターンについておわかりいただけたかと思います。

アンチパターンの理解は、データベースの性能向上とトラブル防止に直結すると言えます。具体的な事例とその回避方法を学ぶことで、より効率的で信頼性の高いデータベース設計が実現できるでしょう。

この記事が、データベース設計の改善に役立てば幸いです。ぜひ、日々の業務に取り入れてみてください。

この記事の監修者

監修者の写真

舛井 智行 (ますい ともゆき)

営業本部 企画&マーケティング部 次長

《資格》

Oracle Master Gold、Oracle RAC Expert、Linux Expert、LPIC Level1、Dbvisit Standby Certified Associate、基本情報技術者

《略歴》

2004年コーソル入社。2019年まで一貫してOracle Databaseの設計・構築・運用のサービス提供に従事。リモートDBAやリモート監視のサービス化、働き方改革プロジェクトで人事制度改革を手掛ける。2019年からライセンス販売強化のため企画&マーケティング部に異動。DbvisitやToad、DPAの取扱開始、販売促進活動を推し進め、ライセンス販売事業の売上拡大に注力中。

《主な著書》

オラクルマスター教科書 Gold DBA Oracle Database AdministrationⅡ
オラクルマスター教科書 Silver DBA Oracle Database Administration I
オラクルマスター教科書 Silver SQL Oracle Database SQL
Oracleの基本 ~データベース入門から設計/運用の初歩まで
プロとしてのOracle入門
Oracle Database 10g Oracle Enterprise Manager 逆引きクイックリファレンス

《担当者様からの一言》

コーソルはOracle Databaseの技術力において日本有数の知見を有すると自負しています。Oracle Masterの最高峰資格である『Oracle Master Platinum』の取得者数も日本No.1です。Oracle Databaseのことはもちろん、それ以外のDBについてもリモートDBAサービスを始めとした様々なサービス、製品を駆使してお客様のお困りごとを解消いたします。お困りごとがあればコーソルまでご相談ください。

監修者の写真

峯岸 隆一 (みねぎし りゅういち)

インフラソリューション部 市ヶ谷クラウドサービスチーム シニアエキスパート

《資格》

Oracle Master Gold、ORACLE MASTER Platinum、Oracle RAC Expert、
Oracle Database Cloud Service Oracle Infrastructure as a Service Cloud 2017 Implementation Essentials、
Oracle Cloud Infrastructure 2018 Architect Associate、
Oracle Cloud Infrastructure 2019 Architect Professional、
AWS Certified Solutions Architect – Associate、OSS-DB Silver、
MySQL 5.6 Database Administrator、基本情報技術者、テクニカルエンジニア(データベース)

《略歴》

2006年コーソル入社。2021年までOracle Databaseを中心にMySQLやGoldenGateなど、多岐にわたる製品のサポート業務に従事。2021年から企画&マーケティング部に異動し、Nutanix NDBサービス化、Qlik Replicateサービス化、AWS、OCIなど様々な製品のサービス化、クラウド環境上の製品検証、ブログ執筆を手掛ける。2023年からOCI技術に磨きをかけるべくOCI基盤の設計・構築業務を遂行中 。

《主な著書》

オラクルマスター教科書 Gold DBA Oracle Database AdministrationⅡ
オラクルマスター教科書 Silver DBA Oracle Database Administration I
オラクルマスター教科書 Silver SQL Oracle Database SQL  Oracleの基本 ~データベース入門から設計/運用の初歩まで

《担当者様からの一言》

コーソルはOracle Database製品および周辺製品において特化した技術力を有している会社です。また、育成にも力を入れており、新卒などOracle Databaseの知識がないエンジニアでも数年でOracle Master Platinumを取得するほどのエンジニアに育て上げることに成功しています。クラウド分野(AWS、Oracle Cloud)にも積極的に進出しておりますので、Oracle Databaseに関するサービスをご要望であればプラットフォーム問わず対応できるコーソルにご連絡下さい。

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